外科 – やけど(熱傷)

外科 – やけど(熱傷)

やけどとは

「やけど」という言葉は、私たちが日常生活で耳にすることが多い言葉であり、そのほとんどが一過性の小さな事故を指す場合が多いかもしれません。しかしその定義は、皮膚が熱などによって受けた損傷を指すだけにとどまらず、多様な状況や症状を内包しています。様々な形で私たちの生活に影響を及ぼす「やけど」は、その重篤さと頻繁な発生率から、重要な公衆衛生上の問題と言えるでしょう。
やけどには、炎や熱湯による熱傷、電気や放射線による特殊な傷、化学物質による化学熱傷、そして低温による凍傷など、さまざまなタイプが存在します。また、その影響範囲も、皮膚の表面のみを損傷する軽度のやけどから、皮膚の深層部まで達する重度のやけどまで様々です。
さらに、やけどの治療法も、その程度により大きく変わります。一部の軽度のやけどは家庭での応急処置と適切なケアだけで治癒することが可能ですが、重度のやけどは適切な医療処置を必要とし、時には手術や長期のリハビリテーションが必要となる場合もあります。

やけどの程度による分類と症状

やけどは一般的にⅠ度、Ⅱ度、Ⅲ度という3つの程度に分けられます。それぞれのやけどの特徴と症状を説明します。

Ⅰ度
Ⅰ度のやけどは、皮膚の表面層である表皮が赤く腫れ上がる程度のやけどです。日焼けや熱湯に触れることなどが原因で起こります。これに対する初期対応は流水で冷却することです。感じる痛みが治まるまで、患部を15~30分ほど冷やすことが基本です。
Ⅱ度
Ⅱ度のやけどは、皮膚の真皮まで損傷を受け、水ぶくれができるタイプのやけどです。こちらも流水で冷却することが初期対応となります。ただし、水ぶくれをつぶさないように注意が必要です。なぜなら、水ぶくれがつぶれると、傷口から細菌に感染するリスクが高まるからです。
Ⅲ度
Ⅲ度のやけどは、皮膚全層が損傷し、皮下組織にまでダメージが及びます。神経まで損傷してしまっているため、痛みがないことが特徴です。このような場合、速やかに救急車を呼んで医療機関での治療が必要となります。

やけどの程度による分類を以下の表に示します。

Ⅰ度

損傷レベル
皮膚の最上層
症状
赤く腫れる
痛み
触れると痛みを感じる
治癒期間(目安)
数日から2週間程度
傷跡
通常は残らない

Ⅱ度

損傷レベル
皮膚の深部まで
症状
水ぶくれができる
痛み
非常に痛い
治癒期間(目安)
2週間から数か月程度
傷跡
深い場合は残る可能性がある

Ⅲ度

損傷レベル
皮膚全層・皮下組織
症状
白または黒く乾燥する
痛み
痛みはない(神経が損傷しているため)
治癒期間(目安)
数か月以上。移植が必要な場合も
傷跡
残る

やけどの原因による分類と症状

やけどの原因として最も一般的なのは、熱によるやけどですが、それ以外にもさまざまな原因があります。それぞれの原因によっても、対処法や治療法は変わります。

熱によるやけど(熱傷)

熱傷は、その名前が示す通り、熱源に直接接触すること、あるいは近くにいることによって発生するやけどです。火、蒸気、熱水、熱い金属、ガラス、または他の熱い物体が原因となることが一般的です。極めて高い温度にさらされると、皮膚組織が損傷し、場合によっては深部組織まで影響を及ぼすことがあります。
熱傷の重大な原因の一つは、火災や熱湯による事故です。また、調理中や仕事中の不注意により熱い物体に接触することもよくある熱傷の原因です。
熱傷の予防には、日常生活での火や熱源の安全な取り扱いが必要です。火や熱湯、熱い食材を扱う際には常に注意深く、特に子どもが近くにいる場合はその危険性を理解させることが重要です。
また、業務で高温環境にさらされる場合、適切な保護具の使用が欠かせません。火の取り扱いや熱い物体の使用方法についての現場教育を受け、熱源から適切に距離をとることで、熱傷リスクを低減することができます。

化学物質によるやけど(化学熱傷)

化学熱傷は、皮膚が酸やアルカリなどの化学物質に接触した結果生じます。化学物質が皮膚に接触すると、組織のタンパク質が変性し、細胞死を引き起こすことがあります。この種のやけどは、工場や研究室で働く方々、または洗浄剤や肥料を扱う方々にとってリスクがあります。適切な保護具の使用と、化学物質を適切に扱い、保存することにより、化学熱傷を予防することが可能です。

電気によるやけど(電撃傷)

電撃傷は、電気が体を通過することにより生じます。これは、高電圧線、家庭用電気器具、または雷によるものが主な原因となります。電流が体を通過すると、細胞組織を熱し、細胞死を引き起こします。このような傷は深刻で、致命的な結果をもたらす場合もあります。電撃傷を防ぐためには、電気機器の安全な使用方法を守ることが大切です。

低温によるやけど(低温熱傷)

低温熱傷は、時間をかけて低温の物体に触れ続けることにより生じる特殊な形のやけどです。湯たんぽや電気毛布・カイロなどを、長時間にわたり身体の同じ部分に当て続けることが原因で起こる場合があります。
熱傷を引き起こすほどの高温でなくても、皮膚が温められる状態が続くと、状況により細胞が死に始めます。低温熱傷を予防するためには、カイロや電気毛布などの長時間の接触を避け、皮膚に直接温度の高い物を当て続けないようにすることが大切です。

凍結によるやけど(凍傷)

凍傷は、寒冷な環境にさらされることで皮膚やその下の組織が氷点下に冷却され、細胞が凍結、死滅する状態です。寒冷環境における適切な服装や体温管理を通じて、凍傷を予防しましょう。

やけどの初期対応|部位別の冷やし方

やけどの部位によっても、初期対応は異なります。具体的な部位別の冷やし方は次の通りです。

手や足のやけど

手や足は比較的自由に動かすことができるため、蛇口から出した水道水に手や足をさらし、直接患部を冷やしましょう。あるいは、水を溜めた洗面器に患部を浸ける方法も有効です。

顔のやけど

顔の場合、特に目や口といった敏感な部位が近くにあるため、注意深く対応する必要があります。フェイスタオルやガーゼを冷水で濡らし、それを慎重に顔に当てる方法が安心です。なお、患部を強く押さえつけることは避け、患部への負担を最小限に抑えましょう。

広範囲に及ぶやけど

広範囲にわたるやけど、特にⅢ度のやけどの場合、自己処置は避け直ちに救急車を呼びましょう。熱が体内深くまで到達し、重大な影響を及ぼしている可能性があるため、医療機関への早急な連絡が重要です。

やけどの治療

やけどの深度と範囲によっては、病院での治療が必要になる場合があります。治療法はやけどの程度によりますが、抗生物質を使用したり、場合によっては手術が必要になるケースも考えられます。

自宅で行うやけどのケア

軽度のやけどであれば、自宅でのケアも可能です。その際に役立つのがワセリンや専用のクリームです。これらは皮膚の乾燥を防ぎ、治癒を助けます。
また、日焼けから患部を守ることも大切です。やけど後の皮膚が回復するまで、直射日光を避けるようにしましょう。紫外線はやけどの痕を深く、また長く残す可能性があるからです。
やけど痕の処置については、病院で医師の指導を受けましょう。自己判断で処置を行うと、不適切なケアにより二次的なダメージを引き起こす可能性があります。病院での治療はもちろん、自宅でのケアも大切ですが、あくまで専門的な医療アドバイスに従って行いましょう。

やけどの予防

家庭においてやけどを防ぐ具体的なポイントは、まずは火気の取り扱いに注意を払うことです。料理中や暖房器具の使用時には火元から離れず、火の取り扱いが終わったらすぐに火を消すように心がけてください。また、就寝前には確実に火が消えていることを確認しましょう。
次に、熱湯や熱い食品の扱いについても注意が必要です。特に乳幼児や高齢者がいる家庭では、誤って熱湯や熱い食べ物に触れないよう注意を払うことが大切です。電気ケトルややかんなどの転倒・落下にもご注意ください。
さらに、感電にともなうやけどにも注意が必要です。特に乳幼児には注意が必要で、誤ってコンセントに鍵などの金属を差してやけどを負うという事故も起こり得ます。また、古くなった電気製品は新しいものに交換し、ショートや過熱による火災・やけどを防ぎましょう。
加えて、家庭で使用する化学製品もやけどの原因となる可能性があります。洗剤やガスボンベなどは必ず適切に収納し、小さいお子さんの手の届かない場所に保管しましょう。

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